第12回 特別の方式による遺言:危急時遺言と隔絶地遺言

酒井 勝則

2019-04-04

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はじめに

 今回は、遺言の特別な作成方法として規定されている危急時遺言と隔絶地遺言について、ご紹介いたします。これまで検討してきました、自筆証書遺言、秘密証書遺言及び公正証書遺言は、民法上「普通の方式」による遺言と呼ばれるのに対し、上記危急時遺言と隔絶地遺言は、「特別の方式」による遺言と呼ばれます。特別の方式による遺言は、普通の方式による遺言に従った遺言ができない程、遺言者の死が差し迫っているなど、特別な事情がある時に認められた遺言であり、普通の方式よりも簡易な方式となっている点に特徴があります。
 特別の方式による遺言の内、危急時遺言とは、遺言者に死が差し迫っている場合に緊急に行う遺言をいい、隔絶地遺言とは、一般社会との自由な交通が絶たれている場所で行う遺言をいいます。いずれの遺言もさらに2種類の遺言に分類され、危急時遺言は、「死亡危急者遺言」と「船舶遭難者遺言」に、隔絶地遺言は、「伝染病隔離者遺言」と「在船者遺言」にそれぞれ分類されます。
 それでは、これら特別の方式による遺言は、具体的にどのような場面で、どのような要件のもとで作成される必要があるのでしょうか。

民法が規定する特別の方式による遺言の要件とは?

 まずは、特別の方式による遺言に関する民法上の規定をそれぞれ見ていきましょう。まず、死亡危急者遺言の要件は、以下のとおりです。
 
(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
 
 普通の方式による遺言との大きな違いは、遺言者自身の署名・押印が不要とされている点です。「死亡の危急」にある場合とは、客観的にみて、死亡の危険が迫っている必要までは不要で、遺言者の主観で、自身に死が迫っていることを認識することで足ります。もっとも、その認識が、遺言者の単なる予想や空想、現実に予想することができない程度では、未だ死亡の危急にあるとはいえません。
 
 次に、船舶遭難者遺言の要件は、以下のとおりです。
 
(船舶遭難者の遺言)
第九百七十九条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 略
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
 
 遺言者の署名押印が求められない点は、死亡危急者遺言と同様ですが、遺言者や他の証人への読み聞かせや閲覧を不要とする点で、死亡危急者遺言と異なります。この遺言は、船舶遭難の場合を想定していますが、現在においては、航空機遭難の場合にも適用があると考えられています。家庭裁判所での確認については、後述します。
 
 次に、伝染病隔離者遺言及び在船者遺言の要件は、以下のとおりです。
 
(伝染病隔離者の遺言)
第九百七十七条 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
 
(在船者の遺言)
第九百七十八条 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
 
(遺言関係者の署名及び押印)
第九百八十条 第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
 
 伝染病隔離者遺言及び在船者遺言は、いずれも、遺言者が交通の遮断された場所(隔絶地)にいるために、公証人の関与を求めることができず、公正証書遺言や秘密証書遺言をしたくでもできないことから、自筆証書遺言の厳格な方式の要件を充足せずとも、有効な遺言を可能にするという観点から要件の緩和が認められています。
 伝染病隔離者遺言は、伝染病に限らず、一般社会との交通が事実上または法律上事由になしえない場所にある場合、例えば、刑務所に服役している場合や地震・洪水などの自然災害により交通が遮断されている場合も含まれます。警察官が立会人とされている理由は、警察官は交通を遮断された場所にも出入りが比較的自由にできるからです。
 在船者遺言の要件は、立会人の資格や証人の人数を除き、伝染病隔離者遺言の要件と同様です。

特別の方式による遺言に共通する要件とは?

 特別の方式による遺言は、普通の方式による遺言の例外にあたりますので、遺言者が、普通方式によって遺言できるようになった時から6か月間生存すれば、特別な方式による遺言の効力は失われます(民法第983条)。また、死亡危急者遺言と船舶遭難者遺言では、遺言者は、遺言内容を口授するのみで、遺言証書の作成に関与しない(遺言者の署名もない)ので、遺言の日から一定の期間内に(死亡危急者遺言は20日以内 、船舶遭難者遺言は遅滞なく)、家庭裁判所に請求して、遺言者の真意であるとの確認を受ける必要があります(民法第9764項、第979条第3項)。当該確認の手続きを経なければ、遺言の効力は生じないこととなります(民法第976条第5項、第979条第4項)。なお、伝染病隔離者遺言と在船者遺言の場合、遺言者の署名・押印はありますので、家庭裁判所の確認手続きを経る必要はありませんが、検認手続きを経る必要があります。
 
 次回は、各方式の遺言に共通する要件・手続きについて検討します。


酒井 勝則

弁護士法人マーキュリージェネラル 所属 

アーレスリアルエステート

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