第2回『民事信託の現状について思う事②』

小林 智

2018-05-01

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重大事件!予想外の展開です。信託スキームSが組成可能だからというのがS信託銀行に移籍した大きな理由の一つだったのですが、前例がないので信託スキームSをやるのであればその信託スキームをあなたが主導して構築しなさい、ということになってしまいます。
 ここで非常に苦労します。本に紹介されていた信託スキームSは理論上のことであって、実務でワークするかどうか検証されないまま本に紹介されていたのです。ここでも実務と理論のギャップがあることに痛感します。実務的にスキームができるまでに様々な経験をさせて頂くことになります。それだけで本が1冊かけるほどになりますのでここでは割愛させていただきます。S信託銀行のいろんな部署の方が要所要所で「こういう信託契約の条文にしてしまうとこうなった時に・・・・」など様々な角度からアドバイスをしてくれます。個々のスタッフが長年蓄積した信託実務上のノウハウを短期間のうちに共有させていただくことができた訳です。それでも、信託スキームSを実際、私のクライアントを第1号として受託するまでに私がS信託銀行に移籍してから1年2ヶ月もかかることになります。今、考えればその時にそのスキームがすんなり構築できていれば、今の私は間違いなくなかったはずです。その1年2ヶ月間、起きている間、頭の中はその信託スキームの構築について考えていたほどです。

 まだまだ経歴は続きます。S信託銀行に約5年在籍します。信託スキームSは一般的にほとんど知られないまま、受託件数だけは粛々と積み上がって行きます。その後、独立系F信託に移籍することになります。2012年12月初めにS信託銀行に辞表を出すのですが、その時点では独立系F信託の登録が決まってはいませんでした。ある意味、ギャンブルみたいなモノでしたが、12月28日に登録が決まります。F信託は2013年2月から開業したものの、諸所の事情により2014年3月に登録を返上することとなり、F信託は開業から1年1ヶ月で消滅します。ただ、2013年2月からF信託のフロントを任されることになりましたので私の判断で講演活動をすることができました。信託スキームSを中心に信託スキームの紹介を精力的に行います。その結果、今までS信託銀行だけで粛々と件数を積み重ねていた信託スキームSが一気に世の中に知れ渡ることになります。F信託が廃業し、私がフリーになることを知り、信託スキームSを一緒にやれないかといろんな信託会社さんが声を掛けてくださいました。ただ、そんな簡単なスキームではないためになかなかうまくかみ合いません。最後にお声かけ頂いた外資系のL信託で信託スキームSを展開することになりますが、こちらもスイス本社といろいろやり取りがあり、あと一歩のところで断念せざるを得なくなり数ヶ月で去ります。
 そして、民事信託で信託スキームを展開していく選択肢を選ぶことになりました。
 私一人では難しかったのですが、F信託時の顧問弁護士だった弁護士先生とコラボレートするような形で今に至っています。




 前回から長々とプロフィールを書いてきたわけですが、自分が歩んできた中で信託について認識できたことがあります。それは次の2点です。
 まず1点目です。それは信託のみの知識では信託スキームを構築することはできません。相続コンサルの経験があって、初めて信託コンサルが可能だと思っています。
 こんなことがありました。ある士業の先生で民事信託の本も多数執筆され、講演もやられておられる有名な先生と話す機会がありました。
 「家族信託で長男だけに主導権を握らせてしまって大丈夫ですか?(受託者を長男とする信託契約)」と私がお聞きしました。先生からは「円満な家族以外では家族信託はやりません。なので、相続発生後、相続人の間でもめる心配はありません!」という回答でした。
 絶句してしまいました!相続コンサルを長年された方だと全くナンセンスな話だと分かるはずです。「100%円満な家族」があるはずがありません。父親という組織の長がいなくなってバランスが崩れてしまい、それまで円満に見えたファミリーが遺産争いするのをイヤというほど目の当たりにしてきました。その先生を知る他の先生からの情報では、案の定、相続実務の経験がほとんどないとのことでした。
 信託コンサルは信託の単独知識だけでは難しく、相続等の周辺知識も必要だということです。そこが今の民事信託・家族信託にはやや欠落しています。将来、家族問題を引き起こす種が安易な信託スキーム構築によってばらまかれていることに懸念を抱かずにはいられません。
 2点目です。信託スキームを構築するにあたっては信託の実務経験がないと難しいと思っています。限りなく実務目線で物事を見ていなければ気付かないところで甘さが出てしまいます。今の民事信託・家族信託は第三者がチェックをする訳でもありません。信託銀行であれば監督官庁の検査が定期的に入りますが、民事信託・家族信託はどこからもチェックを受けず欠陥を指摘されないまま広がっています。実務を通してしか見えず、机上ではいつまで経っても見えてこないことも数多くあります。それがいつ明るみに出るかというと将来問題が発生してからです。今の時点では欠陥があるかどうかは関係者の中ではわからないので余計にタチが悪いと思っています。

 民事信託・家族信託の実務上の留意点を論点にして講演される弁護士先生や司法書士先生が多くなってきました。そういう先生方とも意見交換をさせて頂くのですが、やはり共通しているのは、これだけ柔軟的に活用できる民事信託・家族信託ですが、いい加減な信託が広がりすぎて将来問題が顕在化して、結果として信託銀行や信託会社しか信託スキームを構築できなくなってしまうことを危惧しているということです。
 
 これから民事信託・家族信託で何らかの対策を行おうとする方、信託コンサルをやろうとしておられる方は上記を念頭に入れてください。

 次回から民事信託の基礎知識からご説明させていただきます。

小林 智

(有)コンサルティングネットワーク代表取締役、信託実務家

相続終活専門士

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