第8回 遺留分減殺請求の事例

吉田 隆一

2018-10-26

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前々回、前回と「愛人」という言葉がたくさん出てきていましたね。法律用語がたくさん出てくる文書の中にまさか「愛人」という言葉を多用するなんて、と不思議に思われた方もいらっしゃったかと思います。ただ、これはそんな事案が多いというわけではなくて、気持ちの部分も含めて状況を伝えやすい例えとして、遺留分を説明する側が好んで書いてしまう言葉なんです。実際には、遺言に出てくる相続人以外の第三者として名前が挙がることが多いのは、公共団体や公益法人といったところです。つまり、寄付を目的とする遺言が大多数です。あとは愛人ではないけれども、生前とてもお世話になった方へのお礼という意味合いの遺言でしょうか。ですので、愛人に相続させるのは道徳的に良くない、という理由だからこそ遺留分が請求できる、というわけではありません。公共団体や公益法人、生前お世話になった第三者に対しても遺留分の請求は出来ますので、お間違いのないようにお願いします。
 
さて、今回は一転して愛人が出てこない例え話です。
遺留分減殺請求をすることによって最低限の財産は相続することが出来る、とお話ししましたが、下記のような事例があった場合、いったいどうなるでしょうか。

被相続人Aには子Xと子Yがいる(妻Bは以前死亡)。Aは「子Xに甲土地を譲る、その他の遺産を子Yに譲る」という自筆証書遺言を残して死亡した。相続開始時における甲土地の価額は5,000万円で、この甲土地を除く遺産総額は600万円だった。子Yは遺留分減殺請求をすることを決めた。 しかし、この遺留分減殺請求がされる前に子Xがすでに甲土地を第三者であるSに売却し、所有権移転登記も終わっていた。

もう遺留分の目的物が人の手に渡ってしまっていた、という事例です。
まず、被相続人Aの遺産総額は5,600万円です。法定相続分は子Xと子Yそれぞれ2,800万円ずつ、となりますね。遺留分はその半分ですので1,400万円ずつ、となります。しかし、遺言通りの相続が行われると子Xが5,000万円、子Yが600万円の相続となります。遺留分は1,400万円ですので、子Yは800万円分の遺留分を侵害されている、ということになります。というわけで、本来であれば甲土地のうち800万円分(25分の4)の持分移転登記を求めることができます。
しかし上記の事例では、このとき、第三者のSに所有権が移ってしまっていたわけです。ここで遺留分減殺請求が最優先にされてしまうと、第三者であるSからしてみれば、すでに自分のものとして登記されていたわけですから、不測の損害が生じる恐れがありますよね。
ここで、民法はこのような場合に備えて規定を設けているんです(1040条)

第1040条
1.減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。


法律の条文なので難しく書いてありますが、ようするに上述の事案があった場合、第三者Sが子Yの遺留分が侵害されていることについて何も知らずに(これを「善意」といいます。いわゆる善悪の善という意味ではなく、あくまで「知らなかった」ということを意味します)子Xから譲渡を受けていれば「甲土地は返ってこないし、遺留分に相当する持分の移転登記の請求も出来ない」ということになります。これは善意の第三者Sに損害が生じさせないためです。寝耳に水の第三者Sの気持ちを考えれば当然のことでしょうね(後述しますが、これはあくまで第三者Sから建物(所有権)を返還してもらえないということであり、子Xに対して弁償を請求することは出来ます)。
では、仮にSが甲土地の譲渡時において子Yの遺留分を侵害していることを知っていた場合(これを「悪意」といいます。こちらもいわゆる善悪の悪という意味ではなく、あくまで「知っていた」ということを意味します)はどうなるでしょうか?この場合、子Yは第三者Sに対して遺留分相当の甲土地における持分移転登記を請求できることとなります(ただし、Sは価額を弁償することにより現物返還(持分登記)を免れることができます)。Sからしてみても、遺留分について知っていたのであれば、やっぱり言われてしまったか、と思うことでしょうね。
なお、民法ではこのような場合、第三者Sの善意・悪意を問わず、子Yは子Xに対して価額の弁償を請求できる、としています。子YにしてもSが善意であれば建物(所有権)を返還してもらうことは出来ないですし、Sの悪意を立証して建物の取り戻し請求をするより価額の弁償を請求したほうが話は早く進むかもしれません。もちろん、お金に換算できない思い入れのある建物であれば、時間をかける必要もあるかもしれませんが。
 
このように、民法ではいろいろな事例につき、知らなかった(善意)、知っていた(悪意)ということで物事の判断が変わってきます。これはもちろん相続においても同様なのですね。本日のような事例はよく出てくる事例だと思いますので引き出しの一つに入れておかれるとよいと思います。
遺留分減殺請求については争族の典型的な事例です。相続開始後の話ですので、そもそもこのようなことが起きないような相続を図ることが重要ですね。


 

吉田 隆一

エフピーマトリックス代表取締役/相続終活専門士事務局長

相続終活専門士

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